精神科Q&A

【2371】退院後の母が、まだ妄想を持っている(【2290】のその後)


Q【2290】母が被害妄想のため受診したが、「そんなことで来られてもねえ」と医師に笑われた でアドヴァイスを頂きありがとうございました。メールを差し上げた翌日、自殺願望が出たため、別のクリニックを受診し、統合失調症(後に妄想性障害)との診断を受けて、即、閉鎖病棟に入院となり、治療を重ねて3ヵ月目に突然退院しました。退院後は父と先述のクリニックに通院し、その2ヶ月後にはすっかり症状も消え、笑顔が戻りました。 私たちもとても安心していましたが、年末にかけて再発しました。母にとってストレスなことがあったようで、現在も症状がひどいですが、主治医の先生は、「まだ他人と関わろうとしているので入院までは必要ない」とおっしゃっているようです。確かに、母も「おかしな妄想だと言われるのは分かってるけど、止められない」と言うことも多く、入院した時点よりは少しはよさそうな気もします。 ただ、針の先ほどのこと(携帯で動画が見られないなど)をいつまでも気にして、毎日、小さな矛盾を探しては父や私に泣きながら訴えてきたり弁護士に相談しようとしたりするので、特に父が疲弊して持病が悪化している状況です。処方して頂いた薬はきちんと服用しているようですし、毎週通院もしているものの一向によくならず、私たちも母の話を聞いてできるだけ対応しようとしていますが、限界を感じることが多いです。母の考え方を否定したり、論理的に説明したりしてしまいますし、「もういい!」と言われることもしばしばですが、このままでは私たちも潰れてしまいそうです。 そこで先生にお伺いしたいのは、家族は、妄想性障害の患者にどのように対応したらよいのか、ということです。妄想をある程度受け容れた方がよいのでしょうか。矛盾点を「そんなこともあるよね」と言ってしまうのはよくないのでしょうか。「そんなこともあるよね」と言うと怒られ、逆に論理的に説明すると新しい矛盾点を見つけて怒られ…どう接していけばよいのか、非常に悩んでいます。お忙しいところ申し訳ございませんが、ご教示下さい。宜しくお願い致します。


林: まずは入院されて治療を受けることができ、大変よかったと思います。【2290】のころの状況から見れば、非常に大きな前進といえます。
ただ、現在、まだ十分に回復されていないことが読み取れます。
妄想が残っているからといって、必ずしも入院を続けることが必要ということはありません。けれども【2371】の現在の状態は、ご家族が対応に大変苦労されていることからみて、再入院を考えていいと思います。
診断が妄想性障害であれ、統合失調症であれ、妄想に対する正しい対応は、
肯定も否定もしない
というものです。
その意味で、

母の考え方を否定したり、論理的に説明したりしてしまいますし、

という対応は、「妄想の否定」にあたりますので、不適切です。妄想の内容を論理的にあり得ないといくら正しい説明しても、納得されないのが妄想というものです。論理的な説得は、本人にとってはかえって、「自分のことを理解してもらえない」という失望感につながるのが常です。
他方、

妄想をある程度受け容れた方がよいのでしょうか。矛盾点を「そんなこともあるよね」と言ってしまうのはよくないのでしょうか。

これは「妄想の肯定」にあたると考えられます。
「考えられます」とやや曖昧に言った理由は、同じ内容でも、言い方によっては、肯定にはあたらない場合もあるからです。すなわち、妄想をある程度は受け入れるといっても、その「程度」が問題で、受け入れるとも受け入れないとも言えない言い方が最善といえます。
そうはいっても、では実際にどのように言うべきかは難しいもので、それに、妄想がある程度以上に強ければ、いかなる対応をしてもほとんど無効というケースも現実には十分にあるものです。
 以上を総合すると、この【2371】のケースは、再入院してもう少し症状が弱まってから、家庭での生活を考えるほうが適切であると考えられます。

(2013.3.5.)


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